大人がヘルパンギーナに感染し、なおかつ熱が出ない場合、その診断は時に難しいものとなります。喉の痛みや口の中にできる水疱はヘルパンギーナの特徴的な症状ですが、発熱を伴わないと他の疾患との区別がつきにくくなるためです。まず、最もよく間違われるのが一般的な「咽頭炎」や「扁桃炎」です。これらも喉の痛みを主症状としますが、細菌感染が原因の場合は抗生物質が有効であるのに対し、ウイルス性のヘルパンギーナには特効薬がありません。ヘルパンギーナ特有の口腔内の小水疱の有無が鑑別点の一つとなりますが、初期にははっきりしないこともあります。次に、「アフタ性口内炎」です。口の中にできる痛みを伴う白い潰瘍ですが、ヘルパンギーナの水疱が破れて潰瘍になったものと見た目が似ていることがあります。しかし、アフタ性口内炎は通常、喉の奥よりも口唇の裏や頬の内側、舌などに単発または少数できることが多いのに対し、ヘルパンギーナは喉の奥、特に軟口蓋や口蓋垂周辺に多数の小水疱が集中してできる傾向があります。また、「手足口病」も鑑別が必要な疾患です。手足口病も同じエンテロウイルス属によって引き起こされるため、口腔内に水疱ができる点はヘルパンギーナと共通しています。しかし、手足口病の場合はその名の通り、手のひら、足の裏、そして口の中に水疱が現れるのが典型的です。ただし、非典型的な手足口病では、手足の発疹が目立たず、口腔内の症状だけが強く出ることもあり、この場合はヘルパンギーナとの区別がより難しくなります。いずれにしても、喉の痛みや口の中の異常が続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。医師は症状の経過や口腔内の所見、流行状況などを総合的に判断し、適切な診断を下します。特に熱がないことで油断しがちですが、正しい診断と適切な対処が早期回復と感染拡大防止に繋がります。