「歩くと胃が痛い」という症状の背景には、意外なことに精神的なストレスが大きく関わっていることがあります。なぜストレスが歩行時の胃痛を引き起こすのでしょうか。まず、ストレスを感じると、交感神経が優位になります。交感神経は、体を緊張状態にし、血管を収縮させたり、胃酸の分泌を促進したりする働きがあります。胃酸が過剰に分泌されると、胃の粘膜が刺激され、炎症やただれが生じやすくなり、痛みを感じやすくなります。また、ストレスは胃の運動機能を低下させることもあります。胃の蠕動運動が弱まると、食べ物の消化や排出がスムーズに行われなくなり、胃もたれや不快感、痛みが生じやすくなります。このような状態の胃は、歩行による振動や腹圧の変化といった些細な刺激に対しても敏感に反応し、痛みを引き起こすことがあります。さらに、ストレスは「知覚過敏」を引き起こすことも知られています。これは、通常では痛みとして感じないような弱い刺激に対しても、脳が過敏に反応して痛みとして認識してしまう状態です。ストレスによって自律神経が乱れると、胃の知覚神経も敏感になり、歩くという日常的な動作でさえも、胃の痛みとして感じられてしまうことがあるのです。これを「機能性ディスペプシア」と呼ぶこともあります。機能性ディスペプシアは、胃カメラなどの検査をしても明らかな異常が見つからないにもかかわらず、胃もたれや胃痛、早期満腹感などの症状が慢性的に続く状態を指し、ストレスが大きな発症要因の一つと考えられています。歩くという行為自体が、無意識のうちにストレスになっている可能性も否定できません。例えば、時間に追われて急いで歩いている時や、慣れない場所を緊張しながら歩いている時などは、知らず知らずのうちに体に力が入っていたり、呼吸が浅くなっていたりして、それが胃の不調に繋がっていることも考えられます。もし、歩くと胃が痛むという症状があり、最近特にストレスを感じる出来事が多かったり、不規則な生活が続いていたりする場合は、ストレスが原因である可能性も考慮してみましょう。ストレス解消法を見つけたり、十分な睡眠と休息をとったり、リラックスできる時間を作ったりすることが、症状の改善に繋がるかもしれません。しかし、症状が続く場合は、他の原因も考えられるため、医療機関を受診することをお勧めします。