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逆流性食道炎と歩行時の胃痛
胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱいものが上がってくる感じ)といった症状で知られる「逆流性食道炎」ですが、人によっては胃のあたりに痛みを感じることもあり、特に歩くとその痛みが強くなるというケースが見られます。なぜ逆流性食道炎が、歩行時の胃痛と関連するのでしょうか。逆流性食道炎は、胃の内容物、特に胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が生じる病気です。通常、食道と胃のつなぎ目には、下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)という筋肉があり、これが胃の内容物が食道へ逆流するのを防ぐ働きをしています。しかし、この括約筋の機能が低下したり、胃の内圧が上昇したりすると、胃酸が食道へ逆流しやすくなります。歩くという動作は、この胃酸の逆流を助長する要因となり得ます。まず、歩行時には体が上下に揺れるため、その振動によって胃の内容物が食道へ押し上げられやすくなる可能性があります。また、歩く際には腹筋など体幹の筋肉が使われ、腹腔内の圧力(腹圧)が上昇します。この腹圧の上昇も、胃を圧迫し、胃酸の逆流を引き起こす原因の一つと考えられます。さらに、猫背気味の姿勢で歩いていると、胃が圧迫されて逆流が起こりやすくなることも指摘されています。逆流性食道炎による痛みは、主に胸のあたり(胸骨の後ろ)に焼けるような痛みとして感じられることが多いですが、みぞおちや胃のあたりに鈍痛や重苦しさを感じることもあります。これらの症状が、歩行によって悪化する場合は、逆流性食道炎が原因である可能性を考慮する必要があります。逆流性食道炎の他の症状としては、喉の違和感や咳、声のかすれ、ゲップが多い、飲み込みにくいといったものもあります。もし、歩くと胃が痛むという症状に加え、これらの症状が見られる場合は、消化器内科を受診し、相談することをお勧めします。医師は、症状の詳しい聞き取りや、必要に応じて内視鏡検査(胃カメラ)などを行い、診断を確定します。治療としては、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)や、食道の運動機能を改善する薬などが用いられるほか、食生活の改善(脂っこいものや刺激物を避ける、食べ過ぎない、食後すぐに横にならないなど)や、生活習慣の指導(禁煙、減量、就寝時の上半身挙上など)が行われます。