「水疱瘡は子どものうちにかかっておいた方が楽だ」。昔からよく言われるこの言葉には医学的な真実が含まれています。なぜなら大人が子どもの頃に水疱瘡にかからず初めて感染した場合、その症状は子どもとは比較にならないほど重症化するリスクが非常に高いからです。大人の水疱瘡は決して「ただの水ぶくれ」では済まされない恐ろしい病気となり得ます。まず症状の現れ方が子どもよりも激烈です。発疹が出現する前にインフルエンザのような高熱や強い倦怠感、頭痛、筋肉痛といった強い全身症状が現れることが多くあります。そして発疹そのものも子どもに比べて数が多く、一つ一つの水疱が大きくそして深く広範囲に広がる傾向があります。全身がびっしりと水疱で覆われその見た目もさることながら、かゆみだけでなく強い痛みを伴うことも少なくありません。しかし大人の水疱瘡で本当に怖いのは、これらの皮膚症状よりも「重篤な合併症」の発生率が子どもに比べて格段に高いという点です。最も注意すべき合併症の一つが「水痘肺炎」です。ウイルスが肺にまで及んで激しい咳や呼吸困難、胸の痛みを引き起こします。特に喫煙者や妊娠中の女性は水痘肺炎を合併するリスクが高く、時に人工呼吸器が必要となるほどの重篤な状態に陥ることもあります。もう一つの危険な合併症が「脳炎」や「小脳失調」といった中枢神経系の合併症です。激しい頭痛や嘔吐、意識障害、ふらつきといった症状が現れ後遺症を残す可能性もあります。さらに肝機能障害を合併することも稀ではありません。なぜ大人は重症化しやすいのか。その理由は子どもの頃に様々なウイルスに暴露されてきた経験がなく、初めて遭遇する水痘ウイルスに対して大人の成熟した免疫システムが過剰にそして強力に反応してしまうためと考えられています。子どもの頃に水疱瘡にかかった記憶がない、あるいはワクチンを接種していない大人は特に子どもから感染するリスクがあります。自分自身の健康を守るためにも抗体検査を受け、免疫がない場合はワクチン接種を検討することが賢明な選択と言えるでしょう。
大人が水疱瘡にかかるとどうなるのか