手足口病の典型的な症状として発熱と発疹が挙げられますが、「熱は全くないのに手足にポツポツと発疹だけが出ている」というケースも実は決して珍しくありません。熱がないからといって手足口病の可能性を安易に否定することはできないのです。この「無熱性」の手足口病は特に軽い症状で済む場合によく見られます。手足口病の原因となるエンテロウイルス属には非常に多くの種類が存在します。どのタイプのウイルスに感染したか、そしてその子の免疫状態や体質によって症状の現れ方には大きな個人差が生じます。あるウイルスでは高熱が出やすい、別のウイルスでは発疹が主体で熱は出にくいといった具合です。また過去に別のタイプの手足口病ウイルスに感染したことがある場合、ある程度の交差免疫が働いて症状が軽く抑えられ、熱が出ないまま経過することもあります。保護者としては子どもに熱がないとつい「大したことはないだろう」と安心してしまうかもしれません。確かに熱がないということは体力の消耗が少なく子ども自身も比較的楽に過ごせるため、重症化のリスクは低いと言えます。食事や水分も普段通りに摂れることがほとんどでしょう。しかしここで注意しなければならないのは、熱がないからといって他者への「感染力がない」わけではないということです。症状の有無やその軽重に関わらず体内にウイルスがいる限り、咳や便などを通じてウイルスは排出され続けます。むしろ熱がなく本人が元気なために保育園や公園、児童館などの集団の場へいつも通りに出かけてしまい、知らず知らずのうちに周囲の子どもたちへ感染を広げてしまう「静かなる感染拡大者」となってしまうリスクもはらんでいます。したがってたとえ熱がなくても手のひらや足の裏、口の中といった特徴的な場所に水疱性の発疹が見られた場合は、手足口病の可能性を考え念のために小児科を受診することが賢明です。そして医師の診断と指示に従い集団生活の場へはいつから復帰できるのかをきちんと確認する必要があります。