「しっかり予防接種を受けたのに、結局インフルエンザにかかってしまった」。このような経験をすると、ワクチンの効果に疑問を感じてしまうかもしれません。しかし、接種後に感染・発症してしまう、いわゆる「ブレークスルー感染」が起こるのには、いくつかの科学的な理由があります。まず最大の理由として挙げられるのが、その年に流行したインフルエンザウイルスの株と、ワクチンに含まれているウイルスの株が完全に一致しなかった場合、いわゆる「ミスマッチ」の状態です。ワクチンはその年の流行を予測して作られますが、インフルエンザウイルスは常に変異を続けているため、予測がわずかに外れてしまうことがあります。ウイルスの型が少し違うと、ワクチンによって作られた抗体がうまくウイルスを捕まえきれず、感染・発症に至ってしまうのです。ただし、たとえミスマッチが起こったとしても、ワクチンによる免疫が全く無駄になるわけではありません。類似した型のウイルスに対してはある程度の効果が期待でき、重症化を防ぐ効果は維持されることが多いとされています。次に、個人の免疫応答の違いも関係します。ワクチンを接種した後にどれくらいの抗体が作られるかは、年齢や健康状態によって個人差があります。特に高齢者や免疫力が低下している人は、若い健康な成人と比べて十分な量の抗体が作られにくいことがあり、ウイルスが体内に侵入した際に抑えきれないことがあります。さらに、ワクチンを接種してから十分な免疫ができるまでには約二週間かかります。その間にウイルスに暴露してしまえば、感染を防ぐことはできません。このように、ワクチンを打ったのにかかるケースには様々な理由がありますが、重要なのは、それでもなお接種には大きな意味があるということです。ブレークスルー感染した場合でも、症状が軽く済んだり、回復が早かったり、肺炎などの合併症を防いだりする効果は高く期待できます。接種は無駄だったと考えるのではなく、最悪の事態を避けるための重要な防衛策だったと理解することが大切です。
予防接種したのにインフルエンザにかかるのはなぜか