私の父は、趣味と呼ぶにはあまりにも本格的な、筋金入りのカメラ好きだ。物心ついた頃から、家の中にはいつもカメラが転がっており、運動会や誕生日といったイベントはもちろん、何気ない日常の風景まで、私の成長の記録はすべて、父のファインダー越しに残されている。そんな父にとって、一人娘である私の結婚は、彼の長いカメラマン人生における、最大にして最高の被写体が登場する、ビッグイベントのはずだった。だから、私たちが結婚式をせず、フォトウェディングという形を選ぶと告げた時、父が少しだけ寂しそうな顔をしたのを、私は見逃さなかった。きっと、チャペルで娘の晴れ姿を撮ることを、誰よりも楽しみにしていたに違いない。その申し訳なさから、私はフォトウェディング当日に、父を「公式カメラマン」として招待することを思いついた。クチコミから見えるスタジオごとの特徴を知りつつプロのカメラマンとは別に、父にも、父の視点で、私たちの姿を自由に撮ってもらおうと。 撮影当日、スタジオに現れた父は、いつになく気合の入った様子だった。首からは愛用の本格的な一眼レフを提げ、腰のバッグには交換用のレンズがずらりと並んでいる。その姿は、主役の私たちを祝いに来た父親というよりは、まさに「仕事現場」に来たプロのカメラマンそのものだった。私がウェディングドレスに着替えている間も、父はスタジオの照明やセットを入念にチェックし、プロのカメラマンさんに「今日の光の具合はどうですかね」「このレンズで撮るなら、絞りはどのくらいが…」などと、専門用語を交えて熱心に話しかけている。その背中を見ながら、私は可笑しいやら、愛おしいやらで、自然と笑みがこぼれた。 撮影が始まると、父はまさに「もう一人のカメラマン」として、スタジオ中を縦横無尽に動き回った。プロのカメラマンが、ポーズを決めた私たちの正面からのショットを撮っている間、父はその後ろや、全く違う角度から、私たちの自然な表情や、撮影の合間のオフショットを狙っている。時には、床に這いつくばるような低いアングルから、時には、脚立に登って高い位置から。その情熱と集中力は、プロのカメラマンさんでさえ「お父様、すごいですね…」と舌を巻くほどだった。最初は少し恥ずかしかったけれど、ファインダーを覗く父の真剣な眼差しを見ているうちに、私は、これが父なりの、最大限の愛情表現なのだと、改めて感じることができた。言葉で「おめでとう」と言う代わりに、彼はシャッター音に、その想いの全てを込めてくれていたのだ。 特に印象的だったのは、家族全員での集合写真を撮った時のことだ。プロのカメラマンさんが撮り終えた後、父は「よし、じゃあ次は俺が撮る！」と、三脚を立ててカメラをセットし始めた。そして、セルフタイマーを起動させると、慌てて私たちの隣へと駆け寄る。その、ほんの十数秒の間に、私たちの間には、プロのカメラマンの前では見せなかったような、家族だけの、リラックスした、温かい空気が流れた。父がカメラの元へ駆け寄る、少し滑稽な姿を見て、母も、兄弟も、そして私たちも、心の底から笑っていた。その一瞬の、ありのままの家族の笑顔を、父のカメラは、見事に捉えてくれていた。 後日、プロのカメラマンさんから納品された、完璧に美しいデータと共に、父からも、分厚い手作りのアルバムが届けられた。そこに収められていたのは、プロの写真とは全く違う、温かみと、愛情に満ちた写真の数々だった。緊張で少し顔がこわばっている私の横顔、それを見て優しく微笑む彼の表情、母がそっと私のドレスの裾を直している手元、そして、撮影の合間に、私たちが交わした何気ない視線。そのどれもが、プロのカメラでは捉えきれなかったであろう、私たちの物語の、大切なディテールを写し出していた。アルバムの最後のページには、父の震える文字で、こう書かれていた。「世界で一番美しい被写体へ。最高の笑顔をありがとう。父より」。 私たちのフォトウェディングは、二人のカメラマンによって、二つの異なる視点から記録された、世界で一つだけの特別なものとなった。プロの写真は、私たちの「ハレの日」の美しさを永遠に。そして、父の写真は、その裏側にあった家族の愛と、温かい時間を永遠に。この二つのアルバムは、これから先、私たち夫婦にとって、そして私たちの家族にとって、何物にも代えがたい宝物であり続けるだろう。

キャラクターの絵がかいてある小児科

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